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6:高橋がなり氏 × 高畑好秀

ダメなものを見ると壊したくなるんですよね

高畑: まず、なんで新しい事業に農業を選んだんですか?

がなり氏: 実はわからないんですよね。「なんでオレ農業やってるんだろう」みたいな。農業業界が改革者を必要としていて、(自分が)選ばれちゃったのかなぁ、と。
AVの時も全く同じだったんですよ。「なんでAVやってんだろう」って。でもやっていくうちに、「この業界こんなにダメだからオレにぶっ壊せって言ってるんだなぁ」って(思って)。じゃあ、どんどんぶっ壊そうと。キレイに(AV業界の)建て直しができたもんだから「もう私の役は終りましたよね。じゃあ、のんびり暮らしてようかなぁ」と思ってた。市民農園で野菜つくっていたんだけど、そこからまさか職業になるとは思わなかった。

ほんとは農地借りて楽しく農業しようと思ってたんですが、農業のことを知れば知るほど、「これはAV以上にダメな業界だなぁ」って。

高畑: ほぉー。

がなり氏: ダメなもの見ると壊したくなるんですよね。ダメなところに安穏と胡坐かいて座ってる人とか見ると蹴飛ばしたくなる。彼らはやっぱり農地持ってますし、権力も持ってますし。彼らの弱点は何かなっていうと、流通が仕切れてない。流通は自由競争。ならば流通で力を持つことによって生産の方に意見を言えるようになれるんじゃないのかと。10年ぐらいやってみて生産の方に意見を言えるようになればと。で、その時自分でつくったダイコンは1,000円で卸せるみたいな流通をつくっちゃおうかな、と(笑)。

高畑: なるほど(笑)。

がなり氏: 生産者はずるいんですよ。僕に言わせればもの作ることなんて楽しいこと以外のなにものでもないんですよ。それで流通には興味ない、「自分達は搾取されてる」って弱者のフリしてるけど、楽しいことだけやってる人間がお金っていう報酬を得られる筈ないんだと。ならば流通を変える努力をしなきゃいけないだろうと。自分のつくったものをよりいいかたちでお客様のところへ届ける責任ぐらい生産者が負うべきだと思ってるんですよ。僕たちは生産はまだできないから川下の流通の方から変えていこうとなると、一番川下の部分って「飲食店」。飲食店だと美味しい食べ方の提案もできる。だから、そこから始めようといってスタートしたんですが、言い訳になっちゃうけど、まだやりたいことの半分もできてない。日々いい店になるように努力している。今誉められちゃうと、すごく恥ずかしい。仕入れも全然できてないし、こんな野菜じゃまだダメ。

高畑: そうなんですかぁ?

がなり氏: 利益出せって言ったらこんなもんになるかも知れないけど、不渡り覚悟でやっているのにこんなものかと。簡単な話、ピーマンはこれがいい、パプリカはこれがいい、って、それぞれの野菜がそれぞれの農家から来るわけですよ。鮮度が命なんでまとめて買わないで毎日買うんですよ。そうすると箱に詰まって毎日来る訳ですよ。おとといも一ヶ月分の納品書にサインしてたんですが、安いのは1,000幾らからあるんですよ。そんな金額のために納品書を書くの面倒くさいだろうから、この人は年間払いにしてもらえば、って(笑)。こういうことがいくらでもあるんですよ。そういうカタチですごい無駄なことをやってる。ポリシー守ろうってことは無駄なこともある、お金を損することもある。毎日、驚くような数の小さいダンボールで野菜が届いてます。

高畑: はぁー。

がなり氏: 農業改革っていう竹槍でB29を落とそうみたいなことをやってる訳ですよ。そんな時に目の前にある問題になんで簡単に「出来ない」って言えるの?っていうことなんですよ。弓矢で的の真ん中に当てろっていうと「当たりません」って言う訳ですよ。お前らはオレにぶら下がっていきたいのかい?と。オレを支えるんじゃなくて。
「いい野菜みつかりません」って言えばそれで終わっちゃう話であって、ない筈がないんだと。「オレ達はまだ見つけていないんだ」っていう観点から見て欲しいんですよね。

高畑: 僕が思うのは、今のがなりさんのお話に通じるところがあると思うんですけど、今の若いプロ野球選手達に「目標なんだよ?」って聞くと、なんとなくプロ野球選手で頑張れればいいです、みたいな、なんとなくやれれば、っていう選手が多いんですよ。で、「どうせなら200勝して名球界入って甘い汁吸ったらどうだい?」って言うんですよ。折角プロに入ったんだから。
そうすると「高畑さんは野球を知らないですか?今せいぜい勝てて年に10勝前後じゃないですか」と。200勝するためには20年かかると。「僕は20年も野球やれる訳ないじゃないですか」って。すごい寂しいんですよね。自分の中に限界をつくって、周りを見渡して、周りがこれ位だから自分もこの辺っていう。

がなり氏: 傷つかないように育てられてるからじゃないですかねぇ。オレ達のガキの頃はいかに傷つくか、這い上がるか、みたいな。イジメだって横行してましたし。傷つくっていうのはやっぱり感覚ですから、慣れてくると鈍感になります。僕なんかも失敗とか繰り返して痛い目にいっぱい遭ってきたもんで、逆に刺激がないとつまらないような気がして。今まで時速20キロで走ってドーンって転んだ時の痛みではもう痛く感じなくなったから、30キロで走ったらもっと痛いんだろうなぁ、みたいにどんどん失敗した時の痛みが大きくなるとキツくなって面白い。企業なんてまさに1千万円の勝負で満足していたものが慣れてくると1億になって、1億にも慣れてくると10億になるみたいな。そして、どの勝負の時が一番勝ちたかったかっていうと、最初の10万円の勝負の時なんですよね。
車だって初めて買った時の10万円の中古車はすごく嬉しかったのに、(今は)ポルシェ買ってもなんで嬉しくないんだろう?みたいな。感覚ってなんていい加減なんだろうって。今の子達って危険なことをしないように生きてきている。だから、大きな理想や希望を持つと出来なかった時の自分が痛く感じるんで、無意識のうちに言わないようにしよう、みたいな。すごく見ててつまらないなぁみたいな。
逆に言うと松坂さんみたいな、あのプレッシャーでオレ行けないなぁ、と。あれ、ちょっとでもマイナス思考を抱えたらもう行けない。

高畑: ええ、わかります。

がなり氏: 「なんで彼はあんないい加減にできるんだろう」って。そこが今すごく興味ある。「いい加減」、って失礼な意味でなくて。当然100%はない訳じゃないですか、なのになんで彼はあれを受け入れたのか、っていうのがオレの上の精神力を持ってるんじゃないかと思うんですが。失敗したときにへこたれない心理っていうんですかねぇ。勝負の世界で生きていく以上は必ず負けもある訳ですから、それがないって言ってる人間はおかしい。ビジネスの世界で「ぜったい成功する」って言ってる人間、それは間違っているよね、と。「あなたがそれを“絶対”と言った瞬間にそれには投資する気はない」って。多分あなたは失敗するだろうと。ビジネスっていうのは、「多分失敗するだろう」から入って、そういう“失敗しない要因”を積み重ねていく、“失敗する要因”を潰していく。そういう発想ができるようになった時に、僕は事業がほとんど成功するようになった。
最初、失敗した時は「多分うまくいくだろう」って思ってた。僕はビジネスの世界で生きてきてそれを考えられるようになったから、結果を出せるようになった。多分あの方々(メジャーに挑戦する野球選手達)は負ける要因を減らし、勝つ要因を増やしていって、その結果、自分は勝てるんだっていう思えるんじゃないかと。「絶対うまくいく」なんて発言をする人間は必ずどっかに油断がでる。

高畑: でもまさにその通りで、いい選手ほど臆病ですよ。臆病でありながらも、「(いつかは)できる」からスタートして、「できる」ためには自分は何をすればいいのかを考える。最初から諦めてしまったら、自分に言い訳して「もう出来ない」、「“なんとか”だから出来ない」ってなってしまう。臆病でありながら、ある意味、違う天秤を持ってやれている選手っていうのはすごいですね。

がなり氏: 松坂さんはなんなんですかねぇ?なんであんな度胸があるんでしょう?

高畑: 松坂ってむかし、神奈川の県大会で暴投した時期があって、その後そのことを何度も文章に書いてるんですよね。自分にとってのもの凄く大きな失敗があって、つまり自分がどん底から上がっていくストーリーを自分の中で描けていることによって、他の失敗からも立ち直っていけるんだっていうのがある。

がなり氏: やっぱり、失敗は重要ですよね。自分の中で一生記憶に残ってトラウマになるような失敗っていうのを経験していると、もうああいう風になりたくない、じゃあ、なんであんな風になったのか?って自分を冷静に分析してみる。そして要因が見えてくる。じゃあ、その部分を削っていこう、って。
ライブドアの堀江さんがどんどん行ってる時に話をして、「今言ってもわからないだろうけど、あなた絶対失敗しなくちゃいけないよ」と。失敗を怖がらないで、いい気になって一本橋を「ほら、平気だもん」って歩いていた。落ちたら痛いんだっていうことをわかって歩いているなら認められるけど、「落ちたことがないから怖さを知らなくて平気なだけだから、是非早いうちに失敗してくれ」って言ったんだけど、結局彼は早いうちに失敗できなかった。で、最初で最後の失敗がああいう風になってしまった。
僕は30で独立してすぐに会社が潰れたもんで、お金も数千万で済んだんですよ。あれがある程度信用が出来てくると企業でいうならば何十億と借り入れている訳なんですよ。僕は銀行が金を貸してくれなかったもんで借金が残らなかったんです。あの経験があったから今があると思うんですよ。絶対に成功する人間は一生反省しても悔しい思いをするような失敗があるのが本当の強さだと思ってまして、松坂さんでいえばその部分なんですかねぇ。

成功、失敗は自分が決めるもの

高畑: やっぱりあの沈み込んだ経験から、どうやって上がっていくのかっていう道筋を自分の中でつくれない人間っていうのは結構いる。だけど一回その階段の登り方を覚えたら、次にまた落ちても登り方を知っているから立ち直れる。
それから、いい選手っていうのは、“成功”か、“失敗”か、っていう評価基準を他人が決めるものじゃないと思ってる。

がなり氏: はい。よくわかります。

高畑: えてして成功、失敗って他人が決めてきてますけど、そんなものは自分の中で「これは成功なんだ」と思えば成功だし、「失敗だ」と思えば失敗なんだし。
がなりさんなんかも、ソフト・オン・デマンドなんかは他人から見れば大きな成功を収めていると思われてるかもしれないけど、もしかしたらがなりさんの中では他人が見てるほどの成功ではなかったのかもしれない。

がなり氏: 今の僕を評価されるのは好きじゃない。「オレはこんなとこで終わらないからね」って。農業改革を成功したときにこうした意味をわかってくれるんだろうけど。あんなもんじゃないだと。
あれは本当のスタートラインの第一歩であって、あの経験からわかったことがいっぱいあるんで。その前までは失敗を経験して何をしなければいけないか学んできて、それをもとにやってみて成功できた。今度は成功してみて、何をしたら成功できるかっていう、やっていいことと、やっちゃいけないことがわかったんですよ。これを使って本当のビジネスをやりたいんだ、っていうのが今回農業をはじめた一番の理由なんです。僕に言わせるなら、AVが3Aであるならば、次の2Aに行くんだと。だって僕は自動車業界に行って勝てる気がしないもん。コンビニ業界に行ってセブンイレブンに勝てないもん、と。あそこはメジャーリーグであって、いまは自分が勝てそうだと思える農業、たぶんここが2Aぐらいだと。
やっぱり他人の評価は関係ないですね。自分が認めるか、認めないか。さらに言うと他人は嘘ついて騙せるけど、自分は自分を全部見てますから。自分が自分を信用しないとプレッシャーかかった時とか、土壇場の時に「いける」って思えない。自分を信じていると周りが何を言おうが万馬券でも勝てると思える。自分の評価の方が優勢になってきちゃう。
僕の生き方は他人の評価をあてにしない。
自分の評価をあげる為に他人の評価を気にする場合はありますよ。自分を自信持たせるために、「周りが言ってるじゃん、だからお前きっとすごいんだよ」って利用する。こんど周りの評価が悪いときは放っておく。都合のいいことしか聞かないから(笑)。

高畑: 選手なんかでも、そういう選手の方が伸びますよ。メジャーリーグに挑戦した木田選手も言ってましたけど、他人はメジャーに挑戦するっていうと、成功するか失敗するかの部分の評価を気にしてる。だけど、自分にしてみればメジャーに行くことそのものが成功そのものなんだと。メジャーに行けなくても、2Aの舞台に立てれば、オレが成功だって思えれば成功なんだ、って。

苦しくなった時は他人の為に頑張る

がなり氏: 今の僕の会社に置き換えると、「早く10億円使い切って潰れたらラッキーなんだよ」と。これで中途半端に上手くいくと他の人達も集まってきてどんどんやらなきゃいけなくなる。で、成功すると世の中がオレに「もっとやれ」って言う。で、また頑張らなきゃいけなくなる。そして死ぬまで働かされるんだろうな、と。ここで失敗すれば、さも頑張った振りをしてそっと豪華な生活をすることもできるんで(笑)。
じゃ、オレにとって何が重要かっていうと10億円かけてオレが正しいと思うことを従業員雇って、このゲームをすることが出来た時点でオレは勝者だと思ってる。負けたとしても「(事業を)始められた時点でオレは嬉しいんだもん。皆さん出来ないでしょう」と。

僕はお金のことを「弾丸」って呼んでるんですよ。自分が正しいと思う戦争をする為に使うものだと。なんでいっぱい弾丸集めたのに撃たないで倉庫に貯めておくやつがいっぱいいるんだろうって(思う)。オレが正しいと思うことのために戦争をするために使う弾なんで、撃たなきゃしょうがないんだと。だから負けたとしても、戦いに挑んだ自分は認められるんで。勝てば楽しいんだけど、その時は1Aに行かなきゃいけない。別にメジャーリーグに行かなくてもいいんですよねぇ。それほど興味なくて。
ここで重要なのは、よく「チームのために頑張ります」とか言うヤツがいるけど半分ぐらいは疑ってるんですよ。「お前そんなレベルじゃないだろう」と。それが松井さんや、イチローさんクラスが言うと「そうなんだろう」って思えるけど。オレは負けてもいいんだけど、社員がいる。この会社もまだレストランしかやっていないんだけど、たくさん雇っちゃってる。彼らは儲けたいんじゃなくて、僕に育てられたい、っていう気持ちで来てる。同じ成功体験が出来るって思わせちゃって、これは騙しちゃってるんですよ。こいつら信じさせちゃったんだから、成功させなきゃいけない。これは自分をわざと追い込んでやってるんですよ。
僕、怠け者なんで、楽したいと思うと楽しちゃう人間なんで。スタンドに客いっぱい入れちゃう。「こいつらオレを信じて来たんだから、打たなきゃいけない」って。「こいつらの為に頑張ろう」って。そう思うと人間って自分の能力以上のものが出せる時があるんですよ。
それって、メンタルの部分でもあると思うんですけど。

高畑: 絶対ありますね。よく選手に言ってるのが、調子のいい時は自分の為に頑張ればいい。苦しくなった時は誰か大事なヒトの為に頑張れよ、と。やっぱり勢いに乗っている時は自分を信じたいし、それを加速させたいじゃないですか。でも沈んだ時に自分ばっかり責めていくと、また沈んでいっちゃう。そういう時は誰かの為に頑張れよ、と。そうするとそこでは妥協できないですからね。

がなり氏: 僕は新卒に言うんですよ。「3年辞めないでくれ」って。3年で辞められたら会社は一番損害になるんだと。辞める人間は早く辞めていって欲しい。だけどもお前らにとってオレは社会人としての処女を奪った男なんだと、だからこの会社からスタートして人生楽しいと言わせたいんだと。そのためには3年辞めないでくれと。3年経つと違うものが見えてくる。見えたところで嫌だっていうなら辞めてもいいけど、何にも見えないときに一部分だけ見てやめていっても、そんなの何の役にも立たない。3日で辞めたら3日分無駄になる。1年で辞めたら1年分無駄になる。3年やると無駄でなくなるんだと。信じてくれ、と僕は言ってるんです。それでも辛くなった時に押し付けがましいことを言うけれど、「お前ら会社に借りがある」と。お前ら育てるために金使ってるんだと。人材募集で1人採るのに50万かかってるんだよ、と。
(新入社員が)入ってきて新人研修を1週間やる。なんで1週間研修やるか知ってるか?と。お前ら1週間で何の成長もしないよ。だけど「僕等はお前達をお金かけてでも成長させるんです」という意思があることを証明するために無駄な時間つかって研修してるんだと。「お前らの皆が皆、結果出せるとは思っていない」と。つまり、「この中の何割かが将来うちのために残ってくれると計算してるけど、全員が全員は無理だと思ってるから」。だから、「3年辞めないでいてくれ」と。そして、苦しくなったら「この会社で期待されて採用されて、色んなもの与えてもらっている中で何も出してないじゃないか」、っていう気持ちを持つことで辞めないでくれ、って。
辛い時は自分の為じゃなくて、借りがあると思え、って。

先のことを考えなければガムシャラになれる

高畑: 「3年」というところで言えば、僕も企業で講演をしたりするんですけど、こないだの新入社員研修で言ったのは「あなた達は3年で会社を辞めてください」と。人事の方は目をパチクリしてましたけど。僕が言いたいのは何かっていうと、3年という風に期間を区切ったらガムシャラにやれるでしょう、と。3年で辞めなきゃいけない、つまり、3年で独立できる人間になっていれば、それが一番会社にとってメリットがあることなんです。40近く働いて「よっこらしょ。やっと定年迎えられたよ。」なんていう生き方していては会社にとっては何のメリットもないんだよ、っていう。
マラソンなんかもそうですけど、全力で走れる距離を50メートルから100メートルに伸ばして、その結果全力で走れる距離が42.195キロになるっていう考え方を若い子達にして欲しいんですよ。

がなり氏: 僕も20代の時、佐川急便とテリー伊藤のもとで働いたんですけど、2回だけ夢遊病になったことがあるんです。家で夜寝てる時にいきなり起きて、布団をどけて回し始めて「Fがない!Fがない!」って。「F」って佐川急便の言葉で荷札なんですけど。で、毛布にラベルみたいなの付いてるじゃないですか、それ見て「あ!あった、あった」って言って今度はそれを丸めてトラックに積む感覚でドアを開けて廊下にポーンと投げたんですよ。その物音でうちの母親が気が付いて、「あなた何してるの!」って言うんだけど、「今大変なんだよ!」って。そのうち母親に「今、夜中よ!」って言われてだんだん気が付いて、「あ、そうだよね。夜だよね。寝るわ。」って寝ちゃったのが1回目。
2回目はテリー伊藤の元でテレビの製作やってた時で、夜中に8畳間の部屋の障子を全部外し始めたんですよ。ちょうどうちの姉が子供を産んで里帰りしてた時で、怖がってた顔がいまだに忘れられないんだけど。ガタガタッて片っ端から僕が障子を外すわけですよ。また、うちの母親が「何やってんの!今、夜中なのよ」って。僕は「今セットチェンジで忙しいんだ!」なんて言ってるんですよ(笑)で、また「あ、夜なんだ」って、また寝たんですけど。
僕の今の記憶の中でもあの2回は一番辛かった時期なんですよ。その時に僕はいつも何を考えていたかっていうと、「明日は辞めてやろう」、「今日は我慢しよう」そうやって佐川でやった。そう思えば「今日一日はいいか、明日辞めるんだからいいか」て。そうすると「もう一日我慢してみようか」と。で、こんどテレビの製作会社では「明日はあの伊藤をブン殴って辞めてやる」と。「てめぇ、いい加減にしろよ」と。で、明日、明日で延ばしてた。仮眠所なんかでそんなこといっつも言うもんだから仲間も「いつになったら殴ってくれるんだよ?」って。仲間も同じこと思ってるんだけど、自分はやりたくないからオレに代わりに殴らせようって。だけど「今日は許してやったんだ。明日あの野郎、タチの悪いこと言いやがったら殴ってやるから。」なんて言って一日一日延ばしていくうちに自分が成長しているのに気が付いて。「あ、この伊藤さんお陰で育ったんだ」って2年目ぐらいで感謝の気持ちに変わるんですが、最初の2年間は「無理難題言ってオレ達のことなんて何も思っていない。睡眠時間ゼロでも生きていけると思っていやがる。」みたいにすごい憎んだ部分があったんだけれど、それがいつの間にか変わった。
そういう辛い時に続いたのは「明日、明日」っていうのでしたね。さきのこと考えたら絶対我慢できない。これを一ヶ月なんて考えたら絶対我慢できない。

高畑: サラリーマンだって3年だったらガムシャラに走れるだろうし、ガムシャラに走ったヤツが3年後、やっぱりたいしたヤツになってると思うんですよね。

がなり氏: ほんと、勘違いしてるヤツがいて、頭と体力は使えば使うほど増えるのに、使うと減ると思ってるヤツがいる。3年間ガムシャラに働くと疲れて弱るんじゃなくて、それがベースになるから、さらに上まで仕事が出来るようになるっていう。そこで楽に週休二日制でやっているとそれが普通になっちゃう。それがキツい仕事から入ってしまうと慣れてしまう。
テリー伊藤の会社辞める時に「総務部つくって辞めます」と。総務部って土日は休まなきゃいけないんですよ。土日に会社に来ると怒られるんですよ(笑)二日間もオレはどうしたらいいんだと。今まで月に一度も休んでいなかった人間だから友達もいないし。本当に困っていたんだけど、2、3ヶ月経つと週二日休まないと休んだ気にならない自分がいるんですよ。一日は遊んで一日はのんびりしたいんですよ。人間てこんなに簡単に堕落できるんだ、と。だから“慣れちゃう”って重要だなぁ、って。
今の会社も入ってきたばっかりの連中は僕のスピードについてこれないんですよ。これをオレは毎日ムチを叩きながらスピードをあげていって2年後、3年後には僕と同じスピードで走れるようにしたいと思ってるんですが。僕は知らないうちに早いスピードに慣れていたことがラッキーだな、と。それは伊藤って人間が殴る蹴るしながら鍛えてくれたお陰で速くなっていた。スポーツの世界でもそういうのってあるんだろうけど。

限界を破る快感

高畑: メンタルトレーニングって「根性」と逆行しているようにとられるんですけど、僕は根性って根本的に大事なものだと思っていて、例えば心のウェイトトレーニングをするのが根性。一回心を壊すんですよ、そうすると「超回復」っていって前よりも強くなるんですよ。筋肉と同じなんですよね。壊さない限りは大きくならない。根性っていうのはそれが必要。体の場合はボディビルダーみたいに筋肉をつけてもダメで、しなやかな使える筋肉をつけなきゃいけない。それがメンタルトレーニングだと思うんですよ。筋出力を上げてそれを使える筋肉に変えていく。根性とメンタルトレーニングの使い分けというか。だからスポーツでもそうですけど、結局、限界は破るためにある。自分はもう走れないよ、って思っても先輩が竹刀もって「走らなきゃクビにするぞ」っていうと、もうダメだって心の中では限界だと思ってもまだ走れる自分が居て、まだ走れる。「意外にオレ、自分が思っている以上に走れるんだな」って気付かせてもらえる。

がなり氏: それが多分、中学高校でいい指導者に会えるかどうかなんでしょうね。その時に一回破る経験すると楽しくなるんですよ。一回目のところで破れなかった人間は一生破れない人間になってしまう。破ってくれる指導者が中学か高校でいてくれるかどうかが大きいんじゃないかなぁ、と。
僕は高校の時の柔道の先生が国士舘出たてのバリバリで、僕が中学で初段をとっていたのを調べてやがるんですよ。で、初めての体育の授業の時に、「高橋クンは当然柔道部入るよねぇ」って。柔道はカッコよくないからもうやりたくないと思っていたんだけど、ここで柔道部入らないと3年間体育の時間はイジめられるなぁ、と。そしたら毎日柔道漬けでイジめられまくった。中学の時はわりと本気でやってなかったんで、結構あの先生のおかげで自分の壁をいくつか壊してもらったな、って。

高畑: 自分で壊せないから人に壊してもらうこともあるだろうし、逆に僕なんかは本を書いてくれ、って頼まれた時に6ヶ月で書いてくれ、って言われたら3ヶ月で書きますし、3ヶ月で書けるって出版社もわかってくると「3ヶ月で」って言ってくるから1ヶ月で書く。で、最短で2週間ぐらいで書いたことがあるんですけど、そうやって自分を追い込んでいく感覚は気持ちいいんですよね。

がなり氏: ある程度成功している人間は全員マゾなんじゃないかと。

高畑: よくわかりますね(笑)

がなり氏: 耐えてる自分が大好きなんですよ。
僕はAVをやってた時にSMクラブで日本一だっていうところのオーナーの方に「ご招待しますから来てください」って言われて、僕は「行きません」と。「そういうのお嫌いですか?」ってきかれたんだけど、「行ったらハマる自信ありますのでやめておきます」って。

高畑: ハァー(笑)

がなり氏: 精神的なマゾはまだカッコいいと思ってるんだけど、肉体的なマゾになるとカッコ悪いかな、っていう(笑)

AV会社でひどい状態だったもんで。ヤクザは来る、右翼は来る、国税は来る、警察は来る、っていう風に色んなものにイジめられて。また大手メーカーに流通の邪魔されたりとか、散々色んなことされたもんで悔しくてしょうがなかったんですよ。それにぶつかってやろう、って。これでへこたれたら相手が喜ぶだけだから、と。さらに色んな理由でダメなヤツが辞めていく。辞めるって言ってもAVだから周りも認めるんですよ。ならば、残った連中が「残って良かった」、辞めた連中が「辞めなければよかった」って思えるようにしてやろうと。そういうのをバネにしてガーッって上がってきたら敵がいなくなっちゃったんですよ。もう僕が歩くっていうと邪魔しないんですよ。そうなった瞬間に負荷がかかんなくなっちゃって、この業界にこのまま六十まで居たらかなりつまらないオヤジになっちゃうな、と。じゃぁ、また負荷のかかる、イジめてくれる業界に入っていこうと。で、今イジめられてる最中なんですよ。

高畑: でもそれが快感なんですよね。

がなり氏: そうなんですよ(笑)

 

 

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高橋 がなり(たかはし がなり)
1958年生まれ。専門学校卒業後、佐川急便にてドライバーを経験。体力を買われテリー伊藤に拾われ、「元気が出るTV」などのディレクターを務める。30歳で起業するも、オリジナルゴルフウェアーのメーカーとイベント企画会社の二社を潰す。三度目の正直でAVメーカー「ソフト・オン・デマンド」を設立。10年で100億円企業にまで育て上げて引退。資産およそ100億円を投げ出す覚悟で「国立ファーム」設立準備室を2006年4月からスタート。「ソフト・オン・デマンド」社長時代にはNTV「マネーの虎」に出演。過去に、「サイゾー」「big tomorrow」「Ray」「R-25」「フロムA」など連載多数。
著書「がなり説法」「がなり流」「社長の遺言」他。

 

【第1回】 藤掛 三男氏

【第2回】 不破 央氏

【第3回】 団長氏

【第4回】 金井 豊氏

【第5回】 大渕 隆氏

【第6回】 高橋 がなり氏

【第7回】 asamiさん

【第8回】 島田 佳代子さん

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【第10回】 工藤公康氏 独占インタビュー

【第11回】 大塚 豊氏

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